靖国神社大灯篭レリーフ爆弾三勇士

鉄条網は歩兵の友、戦場の名脇役

2017/08/15

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海に水雷防御網あれば陸に鉄条網あり。

どちらも敵の攻撃を効果的に阻止する「網」だったのですが、海の水雷防御網は非実用性が祟ったのかあっという間に姿を消してしまいました。

鉄条網は西部劇の主役?

鉄条網を形成している「有刺鉄線」が登場したのは1865年頃のフランスだとされています。
1874年、アメリカのジョセフ・グリッデンと言う人が「有刺鉄線」を簡単に作る方法を発明し、「鉄条網」を作る会社を興して広く用いられるようになりました。

このころ、アメリカは西部開拓時代です。
当初の用途は、家畜を野獣から守ったり、家畜の移動範囲を限定したり、不審者を敷地に入れないといった「非軍事用」でした。

鉄条網の父ジョゼフ・グリッデン

「鉄条網の父」ジョゼフ・グリッデン

それでも、生きるためには自衛努力が不可欠な環境でしたから、有刺鉄線は開拓地にくまなく普及していきます。

この段階でジョセフ・グリッデンが軍隊に鉄条網を売り込んでいたら、ノーベルやホチキスと並ぶ「軍事の変革者」としてその名を軍事史にとどめていたでしょうに。

それはともあれ、鉄条網は西部開拓地に広まり、西部劇にはなくてはならない小道具となったのでございます。

鉄条網を戦場で初めて使ったのはイギリス軍

鉄条網が戦場に登場したのは、第二次ボーア戦争(1899年10月~1902年5月)だと言われています。

17世紀から南アフリカに入植していたオランダ人の子孫が「ボーア人」(アフリカーナーとも)です。
ケープ植民地を大英帝国に乗っ取られたボーア人は、新たな入植地を求めて内陸へ向かいました。先住のズールー人を追い払い、土地を分捕って建設したのがトランスヴァール共和国とオレンジ自由国。

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1840年の南アフリカ地図

1840年の南アフリカ地図
Wikiより丸パクリ
緑がトランスヴァール共和国、オレンジはもちろんオレンジ自由国

大英帝国も、この2国の建国を認め国家として承認していました。
しかしトランスヴァール共和国で金鉱が見つかり、オレンジ自由国ではダイヤモンドが発見されると手のひらを返します。

大英帝国はオレンジ自由国を領有化、トランスヴァール共和国をも併合しようとして1880年12月に勃発したのが第一次ボーア戦争。
これは見事にトランスヴァール共和国が勝利し、独立を守ったのでありました。

しかし、一度の失敗に懲りる大英帝国ではありません。
その後も20年近くも嫌がらせや圧力を加え続けてついにボーア人を立ち上がらせることに成功したのが、第二次ボーア戦争。

大英帝国はやっと現在の南アフリカ全域を殖民地とすることが出来たのでしたが、第二次ボーア戦争でも大苦戦になってしまいました。
予想外の大兵力と国富を傾ける結果に、流石の大英帝国も極東でのロシアの勢力拡大に対応できません。
やむなく、東の果ての小さな島帝国と同盟を結ぶ(本音は東のお庭で番犬を飼うことにした)事になったのでありました。

ボーア戦争で鉄条網を準備する英兵

ボーア戦争で鉄条網を準備する英兵

 

第二次ボーア戦争はボーア人側の攻勢で始まりました。
イギリス軍は3ヶ月ほど守勢一方で、その時期に機関銃・塹壕・鉄条網三点セットで造った野戦陣地がイギリス兵の抵抗を支えた、と言われています。

第二次ボーア戦争の英軍陣地

第二次ボーア戦争の英軍陣地

大日本帝国陸軍と鉄条網

大英帝国と結んだ大日本帝国はロシアとの戦争に踏み切ります。

海は失敗続きでしたが陸は順調に作戦を展開する中、躓いてしまったのが「旅順要塞攻略戦」。

陸軍の精鋭を阻んだのが機関銃・塹壕・鉄条網の三点セットでありました。
当時の我が陸軍は機関銃への理解もあり、戦場での通信線敷設を世界で始めて行なったと言われるほど先進的な軍隊だったのですが、どうも鉄条網はガン無視だったようです。
あわててワイヤーカッターを手配しようとした?記録が残っています。

「陸軍省滿一坤第四〇〇九号、鉄線鋏提供ニ関スル件」

『 砲滿第一五一一号(番号間違ってる気がします/沢渡の憶測)
七月三日附ボエレル兄第商会ヨリ送付ノ「鉄線鋏」提供ニ関スル書面正ニ領ス。該鉄線鋏ハ頗ル優等ノモノタルハ充分ニ認知セラレ候得共目下我軍ニ於テハ特別ノ考案ニ基ク鉄線鋏ヲ使用致居候ニ付差当(数文字不明)ノ必要モ無之候条様知有之度』

おやおや、「ボエレル兄第商会」の「鉄線鋏」が優秀と認めながらも、「特別の考案に基づく鉄線鋏」を使ってるから不要って言ってますね。

鉄条網の優秀性

こうして世界中の軍隊で重用されるようになって行った鉄条網。
いったい鉄条網の何が其処まで人気を集める原因となったのでしょうか。

一番最初にあげられるのは、その軽さや巻き取って小さく出来る可搬性の高さでしょう。どこへでも運んでいけます。

次に設置の容易さです。簡単な支柱さえ打ち込めば、すぐに防禦線を展開できます。場合と工夫によっては、支柱すら不要です。ちょっと曲げてやれば自立しちゃいますからね、立たせたら固定するだけです。

さらに安価であることも見逃せないポイントですね。これは説明不要でしょう。

その上、阻止効果が高い。通常の装備だけでは歩兵が鉄条網の阻止線を突破するのは不可能です。夜間だと接近するまで目視も出来ませんから一層効果が高くなります。これは現代でも変わりませんね。熱を持たないですから…

最後に耐砲弾性が高いことを上げておきましょう。

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1916砲撃を受ける英軍の塹壕

砲撃を受けても、鉄条網は柳に風

砲撃の打撃力とは、実はほとんど爆風と飛散する破片に起因するものです。鉄条網を構成する有刺鉄線は、要するにタダの針金ですから爆風の影響は全くと言ってよいほど受けませんし、砲弾の破片は間をすり抜けてしまいます。
有刺鉄線を支えている杭は倒れるかもしれませんが、倒れたところで有刺鉄線はその場に残ってしまいます。結局なんとか切断しなければ侵入できないのです。

第一次大戦が始まり

第一次大戦が勃発すると、ドイツ軍はシュリーフェン・プランで中立国ベルギーを席捲、パリに迫ろうとします。
しかし、フランス軍の機関銃によって進撃を阻止されると、にらみ合う両軍陣地で奇妙な行動が起こりました。

機関銃弾から身を護るために、地面に穴を掘っていたのです。はじめは一人用の「タコツボ」だったものが、徐々に連絡用の横穴が掘られ、ついには連続した塹壕に成長していったのです。

1916英軍の塹壕

1916英軍の塹壕

ヨーロッパ大陸中部から始まった塹壕は、両軍ともに敵の背後に回りこもうと、いや回り込ませまいと(どっちでも良いのですが)どんどん北へ伸び、開戦2ヶ月で全長700キロ、北海にまで達してしまいました。

この塹壕には、もちろん鉄条網と機関銃が寄り添い、防備を強化していたのでした。

この塹壕に篭った戦争は、現代の我々にも影響を与え続けるさまざまなモノを産み出していきます。

代表的なものを列挙してまいりましょう。
西部戦線異常なし」少年が悪徳教師に騙され、人格が歪んでいく。現代日本でも良くあるテのお話ですね。

「戦場のアリア」私が宗教に価値を認める、数少ない機会をもたらしてくれた迷作映画。
だって、クリスマス・イブの休戦でヒロインの歌をききながら「パリに行ったらキミの家に招待してくれよ」と言うドイツ将校に、フランス将校が「俺の家のワインが飲みたいからって、パリに侵攻するのは止めてくれ」って言うんですよ。
お前のワインだけじゃなく、国を護れ、腑抜けのフランス人!
見たい方は戦場のアリア スペシャル・エディション [DVD]

って言うか、「クリスマス・イブ」だけが宗教に関係してる。
自分の宗教観の軽薄さに反吐が出そうだぞ。

「トレンチコート」ミリタリーファッションのハシリですね。当初は分厚いウールの生地だったそうで、もちろんそれは鉄条網対策。

「トレンチナイフ」銃剣の使い難い塹壕での白兵戦用ですね。ってことは鉄条網が突破されてるんじゃないか…

トレンチナイフ

トレンチナイフ

「腕時計」これは塹壕生まれ、ってワケじゃないですが、軍隊の(特に将校の)標準装備になったのは塹壕戦がきっかけです。
なが~い塹壕から、いっせいに飛び出して攻撃をするために時間を正確に合わせる必要が出てきたんですね。

だんだんマジになってきました。

「バンガロール爆薬筒」鉄条網を爆破するために、イギリス陸軍が開発したモノ。日本陸軍では「爆薬筒」と呼ばれ、現地で作られることもありました。って言うとお判りでしょ。爆弾三勇士が命懸けで運んでくださった、アレですよ。

初登場タンク

タンク初登場

「戦車」もともと鉄条網を踏み潰し、塹壕を乗り越えるためのもの。大砲や機関銃はついでに載せてただけなんです。それがいつの間にやら陸戦の覇者になりました。

現代の鉄条網

戦車が発達し、各国に普及してしまったら、鉄条網は役立たずになったのでしょうか?
いえいえ、対戦車兵器も発達し歩兵が有力な対戦車兵器を携行するようになったため、市街戦などではやっぱり随伴歩兵が必要となってきました。
その随伴歩兵を足止めする鉄条網は、相も変わらず侵攻阻止に有効な「兵器」なのです。

したがって、バンガロール爆薬筒は今でも現役(改良は重ねていますが)で、陸自では「バンガロー」と呼ばれてるとか。

一方では鉄条網を構成する有刺鉄線も進歩しています。単純に戦車や装甲車で踏みつぶして排除できるモノではなくなってしまいました。

現代の鉄条網は「レザー・ワイヤー」と呼ばれ、針金にトゲトゲを巻きつけて作るのではありません。
薄い鋼板から直接刃が付いた形状でプレスして作ります。材質も弾性の高い鋼鉄に代っており、耐久性が高くなっています。

また、刃の部分も硬くて鋭くカミソリ(Razor)のように作られています。厚手の制服も簡単に切り裂きます。

レザーワイヤ(かみそり有刺鉄線)

レザーワイヤ(かみそり有刺鉄線)

ワイヤーカッターを使っても、人力で切断するのはほとんど不可能。装甲車や戦車で踏み倒すにしても、弾力があって強靭で支柱無しで自立しちゃいますからコレが難しい。逆に駆動輪に絡まってしまえば走行不能です。

装甲車や戦車の駆動システムはギリギリの性能を狙ってますから、意外にデリケートなんです。非常に強靭なワイヤが絡まることで、低くない確率で走行に問題が起きるんです。

ってワケで、鉄条網は今でも安くて単純な歩兵の味方&敵であり続けているんですね。なんでもないように見えても、戦場の脇役くらいにはなれるぞってお話でありました。

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