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排水量の謎

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軍艦の大きさは

軍艦の大きさをあらわす時、ほとんどの場合は「排水量」を使います。
排水量はプールに水を一杯に張って艦を浮かべたとき、溢れる水の量の事です。
この量は水線下の体積×水の比重ですから浮力と等しくなり、すなわち艦の全重量を示しています。

これに対して商船の大きさは一般に「総トン数」で表します。
これは船の容積を示す単位で、wikiによれば

『その算定方法は国際総トン数をt、係数をk、船内総容積をV(立方メートル)とすると
k=0.2+0.02\log_{10} V
t=k*V
として計算する。』

となっております。

文系の私にはなんのことやらサッパリ判りませんが、船の容積を算出しておいて、一定の係数を掛けてトン数に変換するって事なんでしょう。
そのまま容積で表したら良いじゃん…なんて言わないでね。

いせ

「いせ」

 

排水量にもいろいろありまして

話を軍艦に戻します。
同じ軍艦の排水量でも、なんだかいろいろな表記がされてる事がありますよね。あの話です。

「総トン」は容積から求めますから、船を改装しない限り変化しません。
ですが軍艦に用いる「排水トン」は船の積荷(燃料・水・食糧・砲弾など)の状態によって変化してしまいます。
そこで「標準状態」というべき状態が何とおりか定められているんです。

満載排水量

燃料や弾薬、消耗品を積めるだけ積み込んだときの重量です。最大排水量ともいいます。
戦場ではありえない状態なのであまり重視されません。でもあんまり軽視しちゃうと、旋回時に傾斜して転覆なんて洒落にならない事になりかねません。

常備排水量

艦の臨戦スタンバイ状態で、弾薬の3/4、燃料の1/4、水や消耗品の1/2を搭載した状態で、「基準排水量」が制定されるまでは、艦の基本状態とされていました。

なお、今の海軍(海上自衛隊)の「常備排水量」は旧海軍の「公試排水量」の事なのでここで説明したのとは別物です。

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公試排水量

竣工直後には船の性能を測定する試験が行われます。
これを「公試」と言いますが、公試を行なう時の艦の重量が公試排水量です。
どの状態で公試を行なうかは各国により差があり、大日本帝國海軍は極めて実戦的な状態で公試を行っていました。

すなわち燃料、水、非戦闘消耗品の2/3と弾薬および戦闘消耗品を満載した状態です。

磯風全力公試中

全力公試中の駆逐艦「磯風」

これは、基地から戦闘する海域まで航海して行き、まさに戦端を開くその瞬間の状態です。
燃料、水、非戦闘消耗品の1/3は戦闘中に消費、残り1/3は帰りの航海で使う計算ですね。
弾薬と戦闘消耗品はもちろん戦闘で全量使ってしまいます。

今の海軍(海上自衛隊)では、この状態を「常備排水量」と言っているようです。

艦艇を設計する時は、基本的にこの状態が最良の状態になるように設計します。

基準排水量

軍縮条約の為に制定されたもので、満載排水量から燃料と水を抜いた状態です。

軍縮条約以前の艦では日・英の艦の燃料積載量はアメリカやフランスの艦に比べてかなり大きくて、どちらかと言えば日本に不利な条件(同じ基準排水量なら艦体そのものが小さくなる)でした。
なお、実際にはまず有り得ない状態ですので、あまり考慮する必要はありません。

軽荷排水量

戦闘直後の状態を想定したものです。
燃料・弾薬・消耗品の1/3を搭載した状態で、カタログデータとして表に出る事は少ないのですが、設計の段階で軽視すると船が浮き上がり過ぎてヤバい事になります。

排水量の増大

軍艦の排水量は常に増加の傾向があります。

ちっさくて巨大な大砲、ってのもあるにはありましたけど、成功はしませんでした。
日清戦争で恐怖の的だった戦艦<定遠>7千トン
超弩級の語源ともなった戦艦<ドレッドノート>1万8千トン
長く聯合艦隊の象徴として君臨した戦艦<長門>3万2千トン
そして史上最大の戦艦<大和>6万4千トンと際限なく巨大化していきました。

武蔵の砲撃シーン

武蔵の砲撃シーン

大東亜戦争後は戦艦も建造されなくなりましたが、軍艦は巨大化を続けました。
空母は8万トンを越え、類別では「駆逐艦」である現海軍のイージス艦(ネーミングは巡洋艦ですが)など7千トンを越えています。

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日清戦争期の戦艦より駆逐艦の方が重くなっちゃいました。

排水量の測り方は?

長くなりましたが、ここまでが前フリです。

この「排水量」ってどうやって測っているんでしょうか。
まさか超ドでかいスケールに乗っける、なんて思っていらっしゃらないでしょうね?

建造時の造船所で、いちいち部品を計量するって言うのは良い方法に思えます(このやり方は後述します)が、軍縮条約を相手国がちゃんと守ってるかどうか検証する際には使えませんよね。ナンボでも誤魔化せますから。

そこで実際に海に浮かんでいる状態の艦に、ボートで近づいて喫水を測ります。
艦首だけでなく、艦尾も測りますし、中央部も測らなきゃいけません。軍艦はだいたい「ホギング」と言って、艦首尾が垂れ下がった状態になってますから。

喫水を測ったら、その数値を「排水量等測線図」と言うモノに当てはめて計算でトン数を算出します。
排水量等測線図が何処を探しても見つからないのですが、正面線図のようなモノなんだそうなんで、ご覧ください。

装甲巡春日の正面線図

装甲巡洋艦春日の正面線図

この図は日露戦争で活躍した「春日」の正面線図ですが、艦体の長さを20等分して、それぞれのところで春日を輪切りにした形を表しています。
排水量等測線図はこの図面を基にして、排水量が近似計算出来るように作成されているんだそうです。

なんだ、結局近似値かよ…とお嘆きの貴兄、ではちゃんと測ってお見せしようではありませんか。

建造時の排水量の測り方

霧島へ砲塔旋回部取りつけ

霧島へ砲塔旋回部取りつけ

艦艇の場合、何隻か同じ形の艦が造られます。
このうち、一番艦を建造する造船所は搭載重量の実測を行うことになっていました。
構造部材でも艤装品でも実際に重量を測定して、 船台に搭載する時にその搭載位置と共に記録していき、常に重量重心を把握しておくのです。

ブロック建造の場合はブロック単位で測定しておきます。
撤去物があった場合にも方法は同じで、その重量を差し引いてやります。

重量重心は当然設計段階でも検討されているのですが、実際の現場では計算通りには行かないものだそうです。

例えば外板1枚をとっても、板厚と面積が分かれば重量を計算できますが、 実際の鋼板には許容誤差があります。
誤差自体は僅かなものでも。何千トン,何万トンの軍艦全体となれば誤差では済まなくなってしまいます。

艤装品の場合には、それぞれの製造メーカーでも重量の計測をしていますが、 それが果たして正確なものか造船所では判りません。
やはり搭載時に実測するのが最も確実なのです。

ただし艤装品の重心位置については計測する手段がないので、 概略の位置を推定して記録しているのではないかと思います。

こうした余分な、正確を要求される作業が多いことも、同形艦のうち一番艦(ネームシップであることが多い)は海軍工廠で造られる理由のひとつなんでしょうね。

不明重量も

新造艦は速力公試の何日か前に重心査定試験を行うのが普通です。
速力公試のためにドックに入って船底清掃を行い、 注水浮上後に波浪の影響を受けないドックの中で重心査定試験が実施されます。

重査の結果で排水量と重心位置とが判るので、 船台で積み重ねてきた重量重心との誤差を知ることが出来ます。

最終的にはもちろん実測値である重心査定試験の結果が優先され、誤差は「不明重量」として計上されます。

建造中の名取

建造中の軽巡名取

不明って、脱税会社の使途不明金じゃあるまいし・・・
しかし、こうしてきっちりと記録しておくことが造船技術の発達につながっていきました。

昨今、支那や下朝鮮の造船業がピンチといわれますが、こうした基礎的な作業をおろそかにしていたのでは当然の帰結でしょう。

なお速力公試は常備状態で行うことになっていますので、重心査定試験の結果に基いて排水量とトリムの調整を行って試験に望むことになります。

軍艦の大きさはかなり原始的に測ってた、というお話でございました。

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-帝國海軍, 戦艦 海に浮かべる鉄の城, 政策・戦略・戦術, 海上自衛隊と海上保安庁, 駆逐艦激闘譜
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